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未だ記憶がこんなに鮮明だとは思わなかった。混ざりながらも確実に、気を抜いた瞬間襲われて眩暈がする。あの日。あの夏の夜。笑いながら買ったものは、何だった?レジの並び。窓から漏れる光。坂道。方向音痴とテレビの話をした、あの夜に。わたしは戻ろうとしてしまう。
思い出すのは怖い。決して、嫌な記憶ではないはずなのに。囚われて抜け出せない。延々と続いてこんなにも溢れていく。
キスをする、瞬間。わたしは目を開けられない。伏せられた長い睫の向こう。覗くのがもし、青い瞳だったら。あの瞳だったとしたら。ねえ、敬。わたしは、どうするんだろう。